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▼朝日町大舟木の熊野神社の獅子頭

朝日町大舟木の熊野神社の獅子頭/
 一気に春めいて雪やコロナが後退する代わりに、杉や諸々の花粉が襲ってきた。余計にマスクが取れない心境

である。

 3月13日の朝日町沼ノ平八幡神社の獅子頭取材の後編である。観光協会の清野氏のご案内で沼ノ平 旧家布施家

取材を終え、最上川西岸のクネクネした細い道路を数キロ遡ると大舟木の集落に入った。

公民館に4時近くの到着となってしまった。

 予定より遅くなってしまい、大船木公民館では地区長の石黒さんにお待たせしてしまった。

午後から日陰となる山間の西岸の大船木の集落は日陰になり、もう既に黄昏かけている。

早速、獅子頭の拝見をお願いすると大きな木箱から立派な獅子頭が出てきた。



目は蛇目






記名が残り、資料には作者は「和田止五郎」とあったが「正五郎」の様に思える。
よく見ると薄く下書きした文字に上書きされた様に見える。




なんと意外にも白鷹鮎貝型の朱色の獅子頭だった。

対岸の杉山神明神社の二代目獅子は当工房の作で長井風の獅子頭で、また隣の集落の白鷹町大瀬の稲荷神社は別

のタイプの獅子頭だが、杉山の獅子の作者と同じ文政時代頃の長井勧進代の遠藤盛助の作と見ている。

白鷹鮎貝型の獅子頭が現れるとは驚いた。



大舟木 熊野神社所蔵の獅子頭には記名があり

「弘化二年二月吉日 山形市法花町(法華町 現在八日町)彫師 和田止五郎
別当 堀江重太郎 セハ人 堀江千代八 同 佐藤民蔵 寄附 想村人 同 若衆人」

                       

 江戸期弘化二年は西暦1846年、177年激動の時代を目撃し、130年獅子舞を務めてきた獅子頭を目前に

すると、その貫禄に身が引き締まる。獅子頭の形は鮎貝八幡を型に作られ年季の経過で隙間が見える寄木

造り、タテガミは絹糸。眉毛は巻毛丸みの帯びた巻毛、耳や小鼻のくぼみ、目の縁に黒い線が描かれ、微

妙に異なり山形で制作されたというオリジナル性が感じられる。目と目の離れ具合が寒河江八幡神社で拝

見した獅子頭が浮かんでくる・・・。



寒河江八幡神社の作者不明の獅子頭 形や黒のラインの描き方も似ている




獅子幕は毛まんじのパターン模様。

鮎貝型の獅子頭の持ち方は?という質問に石黒氏は獅子頭を構えて実演していただいた。






中腰になり獅子頭を腰の位置に下げ突き出しながら三角形に動くのだという。白鷹鮎貝の七五三の動き

方が簡略化されたものだろうか。

これは東岸の杉山の獅子舞と同様の形だろう。獅子頭の他に笛と太鼓、そして白鷹全般に獅子の警護や

先立ち、口取りが着衣する波模様の長半纏が出てきた。白の羽織紐の端に重しが入っている。

一着だけ波のデザインが違って長井の獅子幕の様な模様もある。






太鼓は一般的な胴長太鼓で皮もしっかりしている。すると石黒氏が思い出す様に太鼓を打ち出し始め、獅

子太鼓を披露してくれた。正に白鷹風の獅子太鼓である。当時、石黒氏は太鼓を担当していて久々の太鼓

に懐かしさで高揚している様子だった。


笛は明笛(みんてき)が二本出てきた。割れが入り破損していたが、吹いてみると音が出たので鮎貝系獅子

舞風の笛を吹いてみると、石黒氏が確かにそのメロディに近いと証言していただいた。

この明笛は上部に装飾部があり穴が10箇所あり、テープで余分な穴を塞いでいる。伝統的に明笛を用いる獅

子舞は珍しく、西置賜の獅子舞は篠笛の六穴の六本調子で、獅子踊りは六本調子より若干、音程の高い六穴

の七本調子を用いている。長井では下伊佐沢の稲荷神社で明笛を使っていて驚いた。獅子舞も杉山の獅子舞

同様に腰の辺りで構え、総宮系の様に頭には上げない獅子舞だった。朝日町から婿に来た人が獅子舞を伝え

た説も考えられる。また、伊佐沢神社では獅子を制御する「警護・角力」役を「口取り」と言い現在もそう

呼んでいて白鷹系獅子舞の要素を感じる。獅子舞の際も口取りと獅子頭役二人が並び、獅子はその後ろで獅子

舞を行う。下伊佐沢稲荷神社の獅子舞は十数年前に廃絶してしまったので残念である。




大舟木熊野神社の例祭で獅子舞が途絶えから40年経過し、大舟木の人口減少は益々深刻で獅子舞があった事も

忘れられようとしている。今回の取材で大舟木に伝わる立派な文化財である獅子頭による祭りの存在が確認できた。

これをきっかけに、少しでも地域に賑わいが再開できればと願うのである。

 熊野神社の例祭は従来4月15日だが、最近は4月29日に神事のみ行われているそうだ。

ほんの一瞬だが、40年ぶりにお祭り太鼓の音が、大舟木の集落から最上川渓谷に春の触れ太鼓として響き渡った。

















2023/03/15 17:51 (C) 獅子宿燻亭10
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